映画「靖国YASUKUNI」上映中止問題に関する会長声明

1 靖国神社をテーマにしたドキュメンタリー映画「靖国YASUKUNI」について、相次いで、国内の映画館が予定していた上映を中止するという事態が生じた。
 この予定していた上映中止の理由については、映画の内容を理由として助成金支出を問題視する一部の国会議員が、文化庁を通じて国会議員を対象とする試写会を実施するように要請したところ、その後、上映を予定していた映画館に対して街宣車などによる上映中止を求める抗議の行動や電話などが来るようになったことから、映画館側で近隣住民や観客に迷惑がかかることに配慮した結果、自主的に、予定していた上映を中止したなどと報道されている。

2 しかしながら、このような上映中止は、映画の上映という表現行為が不当な圧力により封じられたものであって、表現の自由を保障する日本国憲法第21条に照らし、深く憂慮すべき事態であると言わなければならない。
 すなわち、自由で民主的な社会においては、市民が政治的意見を形成する前提として、市民の自由な意見表明を保障することは必要不可欠であり、憲法21条は、このために市民の多様な意見表明を最大限保障したものである。ところが、市民が、不当な圧力若しくは他者の反発・抗議を恐れた結果「自主規制」の名目で、表現行為を、中止するという今回のような事態が続けば、結果的に、市民の多様な意見表明を前提とした意見形成を行うことができない社会を招来することにもなりかねない。

3 また、今回の上映中止問題の特徴は、一部の国会議員が一般公開の直前に、文化庁に対して、映画の内容調査を理由とした異例の試写を申し入れたことに端を発する点にある。公権力による表現行為の事前抑制を禁止した憲法21条の趣旨に鑑みれば、国家権力の重要な一部を担う国会議員はその行動によりこれからなされようとする表現行為につき関係者に萎縮効果をもたらすような行動は厳に慎むべきである。にもかかわらず、今回の一部の国会議員の行動は、自身の行動の影響により、映画関係者らの表現行為に対し萎縮効果をもたらすおそれについての配慮を欠いたものと言わざるを得ない。

4 当会は、国家権力の一部を担う者の行動によって、発表前に、市民が表現行動について意に反する規制を余儀なくされまたは発表をためらう事態とならないように国会議員、文化庁などに対し、表現の自由を最大限保障することを強く求めるとともに、今後はいささかも事前の表現内容への介入と受け取られる行動を取ることのないよう要請するものである。
 同時に、当会は、映画関係者に対して、上映行為に対する不当な圧力若しくは他者の反発・抗議に屈することなく、憲法上の表現の自由の重要な担い手として、主権者たる国民のために、今後も、多様な意見の発表に広く寄与されることを強く期待するものである。

2008年(平成20年)5月16日
兵庫県弁護士会
会長正木靖子

 


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