映画「靖国 YASUKUNI」上映中止に関する会長声明
2008年(平成20年)4月23日
第二東京弁護士会 会長 庭山正一郎
08(声) 3号
靖国神社をテーマにしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」について、映画館が相次いで上映を中止するという事態が発生した。
上映中止の理由については、映画の内容を問題視する国会議員が文化庁を通じて国会議員を対象とする試写会を実施するように要請し、その後、上映を予定していた映画館に対して街宣車などによる上映中止を求める抗議の行動や電話などがくるようになったため、映画館側で近隣住民や観客に迷惑がかかることに配慮したためなどと報じられている。
このような上映中止は、映画の上映という表現行為が不当な圧力により封じられたものであり、憲法21条が保障する表現の自由の見地から、深く憂慮すべき事態である。
民主主義社会において、主権者たる国民が各人の政治的意見を形成するにあたっては、多様な意見が表明されることが必要不可欠である。その意味で、表現の自由は、自由で民主的な社会の根幹をなすものであり、最大限保障されなければならない。
しかし、今回のように不当な圧力により表現行為が抑圧され、また他者の反発・抗議をおそれて自らの意見の発表を躊躇せざるをえないような状況は、我が国の社会が「自由にものを言えない社会」となりつつあるとの危惧を強く抱かざるを得ない。このような社会となれば、多様な意見を表明し、意見交換をする道が閉ざされ、民主主義が危殆に瀕することとなる。
また、今回の事態は、一部の国会議員が、映画会社に対して、文化庁を通じて国会議員向けの試写会を実施するように求めたという異例な展開が一つの契機となっていることは否定しがたいところである。表現の自由を事前に抑制することを憲法が禁じていることからすれば、国家権力の一部を担う国会議員の行動としては慎重な配慮に欠けるところがあったと言わざるを得ない。
当会は、これまで「ものを言う自由は今」というテーマで継続的にシンポジウムを行い、表現の自由を訴えてきた。当会は、基本的人権を擁護し、社会的正義を実現することを使命とする立場から、表現の自由の重要性をあらためて訴えるとともに、不当な圧力から表現の自由を守るべく、全力を尽くす決意である。
今後、二度とこのような事態が生じないように、当会は、文化庁などの関係諸機関に対し、表現の自由を最大限保障することを求める。同時に、当会は、映画関係者に対して、不当な圧力に対し毅然とした態度で臨まれることを全面的に支援することを表明し、今回の事態を乗り越えて表現の自由の担い手として一層の活動をされるよう期待するものである。
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