映画「靖国 YASUKUNI」の上映をめぐる事態への声明

 中国人映画監督、李纓(リ・イン)さんによるドキュメンタリー映画「靖国YASUKUNI」の上映中止や延期が各地で相次ぐという看過できない出来事が起きました。この映画は日本に19年在住している李監督が10年の歳月を費やして毎年の8月15日の靖国神社をめぐる様々な姿を多角的に表現した作品で文化庁から750万円の助成を受けて完成したと聞いています。

 今回の上映に関しては、妨害活動により上映中止・延期に追い込まれ、さらには映画の中で重要な位置を占める日本刀「靖国刀」を打つ刀匠が出演の場面と名前の削除を希望しているとの報道がされるに至っています。

 今回の事態に至る経過の中では政治家による上映に対する介入が大きな役割を果たしているということがはっきりしてきています。3月12日に全国会議員を対象にした試写会が行われましたが、この試写会については、そもそもは議員有志でつくる「伝統と創造の会」の代表を務める稲田朋美議員が公開前に試写をしたいと配給会社に申し入れ、それに対し特定の人への試写を断った配給会社が全議員を対象にした試写会を提案して行われたと配給会社の人がマスコミなどで明らかにしています。また3月27日には参議院において有村治子議員が、刀匠自身が自分の出演部分の削除を求めていると発言し、そのことについては刀匠に電話をかけその意向を確認したといいます。政治介入への批判が高まると稲田議員は、「事前試写を求めた事実はない。映画の公開を問題にしたことはない。」と政治介入を否定する立場を示していますが、いくら弁明しても政治家の行動が今回の事態を招いているのは明らかだと私たちは怒りを覚えます。

 また今回の上映中止・延期問題は、日教組の大会会場としてホテルの会場を貸し出すことを中止した品川プリンスホテルの問題とも通底しています。憲法21条の考え方に示されているように言論や表現の自由を大きく制限するこのような行為を許してはならないのです。言論や表現、集会の自由が保障される社会が大切にされなければならないということは、様々な言論弾圧や戦争という過去の歴史から人間社会が獲得した重要なあり方なのです。そのあり方を根本から否定していく今回の映画「靖国」をめぐる事態は黙認できません。

 私たちは映画「靖国YASUKUNI」が各地で上映されることを望むと共に上映できるよう積極的に支援していきます。日本社会において言論、表現、集会の自由への制限が戦争と表裏一体の関係であった歴史的事実を念頭に置きつつ、私たちは映画「靖国YASUKUNI」が各地で上映できるよう積極的に支援することを表明し、この声明を発するものです。

2008年4月17日

呼びかけ団体・個人
団体:不戦へのネットワーク/<ノーモア南京>名古屋の会/名古屋YWCA
個人:安川寿之輔(名古屋大学名誉教授)/斎藤まこと(名古屋市会議員)
   樋口浩造(愛知県立大学教員)/山本みはぎ(不戦へのネットワーク)/八木巌
   金安弘(不戦へのネットワーク)/早見章(不戦へのネットワーク)
   平山良平(<ノーモア南京>名古屋の会)
合計 賛同団体11 氏名公表可162人 不可7人

 


不戦へのネットワーク http://www.jca.apc.org/~husen/