映画「靖国 YASUKUNI」上映中止に関する会長声明
近時、妨害活動又はその恐れにより表現行為が抑制される事態が相次いでいる。
記憶に新しいものとしては日本教職員組合による教育研究集会の開催について、妨害行為を恐れたホテルが会場の使用を拒否し、宮城県内においても仙台市が金剛山歌劇団が公演を予定した仙台市民会館の使用を拒否するという事態が発生した。
更に今般、ドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」について、本年4月12日から上映を決めていた映画館が、相次いで上映を中止するという異常な事態が発生した。
これらの事態は、施設管理者や映画館が、街宣車などによる妨害活動の発生を懸念し、又は現実の妨害活動を受け、近隣施設に迷惑がかかることなどを配慮したためと報じられている。
いうまでもなく民主主義は、広く国民に多様な価値観、意見の違いがあることを前提に、自由な言論を通じて民意を形成していく過程にその本質があり、その意味で言論の自由の保障はまさに民主主義の根幹をなすものであって、憲法第21条の保障する言論及び表現の自由は、民主主義を維持する上で必要不可欠な権利である。映画という表現手段についても表現の自由に含まれることは当然であり、映画の自由な上映は最大限に保障されるべきである。
今回の上映中止の事態は、一部の国会議員の文化庁への要請を契機とした試写会が一つの原因となって発生したものであることは否定できない。政治権力に携わる国会議員が映画公開前にこのような要請を行うことは、表現行為に対する事前抑制につながる恐れがあり、検閲を禁止した憲法の趣旨に鑑みても慎重な配慮が求められていたというべきである。
また、一部の者による妨害行為等の圧力によって、映画の公開が制約されるとすれば、民主主義を支える表現の自由が侵害されるのは明らかであり、市民にとって重大な意味をもつ自由・人権が深刻な危機にさらされることとなる。
よって、当会は、政府・国会に対して試写会開催の経過とその後の一連の経緯についての調査を求めるとともに、不当な圧力による上映中止という事態が生じないよう、関係機関に対し、表現の自由を最大限尊重するよう求める。
そして、当会は基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とする法律家の団体として、言論の自由が保障され、いかなる意見や価値観も自由に表明しうる民主主義社会の重要性を改めて広く市民に訴えるとともに、自由な言論を萎縮させるあらゆる妨害行為を許さない社会を創るため全力を尽くす決意であることをここに表明し、映画関係者に対しては、表現の自由に対する不当な圧力に対し、表現の自由の担い手として萎縮することなく表現活動を遂行されるよう期待する。
2008(平成20)年4月11日
仙台弁護士会
会長 荒 中(あらただし)
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