「映画『靖国』への政治圧力・上映中止に抗議する緊急会見」の呼びかけ文

 私たちは、特定の政党や宗教団体、また企業組織などのつながりとは一切無関係に、ジャーナリスト、映画人、演劇人、作家、漫画家など“表現者”として、ドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』が置かれている現在の状況に深く憂慮し、発言するために今回の記者会見を開きます。

 4月12日に封切りが予定されていたドキュメンタリー映画『靖国 YASUKUNI』の上映がいくつかの映画館で中止に追い込まれた背景には、稲田朋美衆院議員や有村治子参院議員によるさまざまな政治的圧力があります。
 「国政調査権」の名のもとに上映前の作品への試写を要求し、また、3月27日の国会参院・内閣委員会での質問・追及を通して、文化庁および芸術文化振興基金の助成制度に介入しました。
 この「試写要求」は、結果として“事前検閲”となり、一部政治団体の上映反対活動に口実を与え、映画館の上映自粛への圧力を生んでいます。日本国憲法を尊重し擁護する義務を負う国会議員が、憲法で保障されている言論、表現の自由を脅かしたことに強く抗議します。

 本来、文化行政は政治からの独立性が特に求められるものです。今回の事態には、文化庁にもその責任の一端があります。政治介入の経緯を公に明らかにすることを求めると同時に、今後、多様な文化の振興のために毅然としてその独立性を守り、助成活動を続けることを強く求めます。
 今回、上映の自粛を決定したのは映画館自身です。映画館は、表現活動の一端を担っています。映画への自由な批判・意見・論評が保障されるためには、映画を観るための自由で安全な環境は不可欠です。圧力に屈することなく、映画表現を守るために創り手たちとともに、誇りを持って表現の場を守ることを強く求めます。

 また今回の映画『靖国 YASUKUNI』をめぐる問題は、ジャーナリストや映画人など、あらゆる“表現者”に向けられた攻撃でもあります。様々な圧力にさらされ、萎縮し、自己規制し、自粛に追い込まれつつある現状に危機感をもち、表現の自由、言論の自由、報道の自由を守り、国民の知る権利を守るために、きびしく政治を監視していく姿勢が改めて求められています。

 私たち“表現者”は、いかなる圧力にも屈することのないよう、今後も互いに連携し、活動を続けます。最後に、今回の事態の推移を見つめ続け、映画「靖国」の上映をはじめ、様々な表現・報道の機会が保障されることを強く望みます。これは、あらゆる主義・思想・信条・立場を超えて、この国で暮らすすべての人々に呼びかけるものです。

2008年4月8日

【呼びかけ人代表】土井敏邦(ジャーナリスト)、安岡卓治(映画プロデューサー)、綿井健陽(ジャーナリスト)
【呼びかけ人】石坂啓(漫画家)、是枝裕和(映画監督)、斎藤貴男(ジャーナリスト)、坂本衛(ジャーナリスト)、篠田博之(「創」編集長)、ジャン・ユンカーマン(映画監督)、鈴木邦男(作家)、田原総一朗(ジャーナリスト)、豊田直巳(「日本ビジュアル・ジャーナリスト協会」共同代表)、野中章弘(ジャーナリスト)、服部孝章(立教大教授)、原寿雄(ジャーナリスト)、広河隆一(「DAYS JAPAN」編集長)、以上、会見発言者から。
石丸次郎(ジャーナリスト)、岩崎貞明(「放送レポート」編集長)、魚住昭(ジャーナリスト)、太田昌国(民族問題研究者)、岡本厚(「世界」編集長)、鎌仲ひとみ(映像作家)、坂上香(映像ジャーナリスト)、桜井均(ジャーナリスト)、田島泰彦(上智大教授)、筑紫哲也(ジャーナリスト)土江真樹子(映像ジャーナリスト)、中村高寛(映画監督)、森達也(映画監督)、山上徹二郎(映画プロデューサー)、以上、4月8日現在まで(五十音順)。

 


映画『靖国』特設サイト http://www.eigayasukuni.net/
緊急会見の発言録