【声明】 
映画「靖国 YASUKUNI」への政治的攻撃、上映中止に強く抗議する

 いま憲法21条が保障する、集会および言論・出版・表現の自由を抑圧する事態が頻発している。

 今年1月、つくばみらい市が主催する「ドメスティックバイオレンス」をテーマとした講演会が、男女共同参画を否定する特定の右翼勢力による集会妨害が予想されるということから、直前になって中止された。市当局が右翼団体の脅迫に屈したためであった。2月には、日本教職員組合(日教組)が主催し、約2000人が参加する予定だった教研集会初日の全体集会が中止に追い込まれた。予定会場のグランドプリンスホテル新高輪が、予約金を受け取っていながら右翼団体の妨害が予想されることを理由に会場使用を断ったからである。全体集会の中止は、57回の教研集会で初の事態である。
 また、3月28日に大阪地裁で原告敗訴の判決が下された大江・岩波沖縄戦裁判では、昨年来、特定の右翼団体が執拗な街宣行動を繰り返し、裁判報告集会などを実力で妨害・攻撃している。
 そして、映画「靖国 YASUKUNI」上映中止問題が起こった。これは、映画と同様、憲法21条のもとで出版に携わる私たち日本出版労働組合連合会(出版労連)としても、決して看過できるものではない。

 映画「靖国」は、日本に19年間暮らす中国人の李纓監督が、毎年8月15日に靖国神社を訪れる参拝者や遺族、また靖国神社の“ご神体”である日本刀「靖国刀」を打つ老刀匠の姿などを10年間にわたって記録し、一切のナレーションなしに淡々と描き出した日中合作のドキュメンタリーである。釜山やベルリンなどの海外映画祭でも上映され、香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受けるなど国際的評価も高い。文化庁所管の独立行政法人、芸術文化振興基金が助成金を出したのも妥当である。
 にもかかわらず、新宿バルト9に続いて東京・大阪の四つの映画館が上映中止を決定した。右翼の街宣車が抗議に押しかけ、各映画館が観客や近隣への迷惑をおそれて上映を「自粛」したためである。4月に入り、これらとは別の映画館が上映を決定したが、当初の「自粛」の衝撃は計り知れない。

 この背景には、自民党の稲田朋美議員らによる政治的圧力があった。稲田議員は国政調査権を盾に、映画「靖国」への公的助成が適切だったかどうかを検証するための「試写会」を、文化庁を通じて配給会社に「要請」した。試写会は3月12日に実施され、映画を観た稲田議員は「イデオロギー的メッセージを感じた」「ある種のイデオロギーをもった映画に公的基金から助成するのは相応しくない」と発言し、芸術文化振興基金からの助成取り消しを求めた。
 その後上映中止の決定が相次ぐと、稲田議員は4月1日、「上映中止は残念だ。街宣活動で表現や政治活動の自由が制限されることは、あってはならない」と述べた。本心からそう思うのなら、自ら「靖国」の上映を全国の映画館に訴えるべきである。稲田議員が国会議員としての憲法遵守義務を放棄し、すすんで憲法21条に反する言動を行った責任は非常に大きい。国会議員の発言が、力で言論を抑え込もうとする者たちの後押しをすることを、もっと重く受け止めなくてはならない。

 上映中止を決定した映画館は、表現の自由と国民の「知る権利」を守るために、上映を決断するべきである。そして想像していただきたい。いま「自粛」することが、将来より深刻な表現の自由の抑圧を招くであろうことを。これはアジア・太平洋戦争期の歴史的事実から考えても、きわめて蓋然性の高いことである。

 出版労連は、憲法21条を踏みにじる動きには断固抗議し、これからもメディアに働く労働者をはじめ、この問題に心を寄せる広範な市民と協力して、言論・出版・表現の自由を守り抜く決意である。

2008年4月7日

日本出版労働組合連合会 中央執行委員長 津田 清
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