表現の自由の危機に共に声を挙げよう
――ドキュメンタリー映画『靖国』の上映中止に関する緊急声明

 日本在住19年の中国人・李(リ)纓(イン)監督によるドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」が、東京(4館)と大阪(1館)の映画館の 「自粛」によって上映が中止になるという驚くべき出来事がおこった。
 事の起こりは、自民党の稲田朋美衆院議員が文化庁から映画に公的助成金が出ていることを疑問視し、異例の公開前の試写会を求め、結果的に全国会議員対 象の試写会が行われたことにある。国会議員によるこうした行為が、映画上映への無言の圧力になることは明らかである。
 その後、上映予定の映画館に嫌がらせの電話や右翼団体による街宣活動が行われ、上映中止の圧力が強まる中で今回の事態に至ったものである。
 このような不当な圧力に屈し、映画の上映を中止することは、日本国憲法第21条で保障されている、集会・言論・表現の自由などを自ら危機に陥れ、民主 主義社会の基礎を放棄することにつながることは明らかであり、事柄は極めて深刻かつ重大な問題と受け止めるべきである。
 私たちは断じて今回の出来事を軽視・沈黙することはできない。
 すでに、日本映画監督協会(理事長・崔洋一をはじめ映画関係の諸団体、言論・表現・報道に関わる日本新聞協会、日本ペンクラブ、日本民間放送連盟な どの諸団体、そしてマスメディアが上映中止を批判し、上映を勧め、表現の自由の危機を訴えている。
 一方、福田首相、町村内閣官房長官、渡海文科相も上映中止に対して遺憾の意を表明し、警告を発している。国会議員も、表現の自由の危機としてとらえ、 国会で取り上げるなど追及が始まっている。

 私たちは、今回の事態に対して、すべての政党・政派、国会議員が、そして言論・表現に関わるすべての団体及び個人が、靖国問題への立場の違いを超え て、日本社会における表現の自由を守るために共に声を挙げ、行動するよう求めたい。
 幸い、大阪市淀川区の映画館などが予定通り上映することを決めたという朗報が報道されている。
 私たちは、中止を決めた映画館に改めて上映を要望すると共に、上映予定の映画館が不当な圧力に屈しないよう求めたい。
 この映画が、首都東京をはじめ、全国各地で上映されるように、日本社会で暮らすすべての人々に、できるところからの協力・支援を強く訴える。
 最後に、私たちは集会・言論・その他一切の表現の自由を保障するために、最善の努力を払い、戦前・戦中にあって、言論・表現の自由が奪われ、侵略・加 害の歴史をくり返した事実を心に刻み、再び戦争への道を進むことのない日本の国・社会を創ることを決意するものである。

2008年4月4日

平和遺族会全国連絡会代表 西川重則