「自由な表現の場の狭まりを深く憂慮し、関係者の猛省をうながす緊急声明」

 報道によると、4月12日公開予定の靖国神社をテーマにしたドキュメンタリー映画「靖国 YASUKUNI」(李纓監督)の上映が、当初予定していた映画館の自粛措置により中止が相次いでいるという。さかのぼって2月には、グランドプリンスホ テル新高輪で予定されていた日本教職員組合(日教組)の教育研修集会が、受験生等への配慮からホテル側の会場使用拒絶により中止せざるを得なくなった。さ らに年始めの1月には、茨城県つくばみらい市で開催予定だったドメスティックバイオレンス(DV)をテーマにした講演会が中止する事態が発生している。

 表現の自由はいうまでもなく、情報流通の自由であり、その自由が保障されるためには、意見表明の「場」が確保され、伝え手から受け手に表現が伝達されなけ ればならない。情報流通を担う者には、そうした民主主義社会に不可欠な表現の自由を守る社会的責務がある。にもかかわらず、先に挙げた事例以外も含め、担 い手側が十分にそうした自らの役割を自覚していないのではないかと思われる事例が続いていることを深く憂慮する。

 確かに、映画館としては観客の安全やスクリーンの保護を考えなくてはならないだろう。ホテルが他の宿泊客や近隣の影響を考える気持ちも大切だ。しかし、一 度集会を断り、映画の上映をやめれば、そうした動きは必ず連鎖反応を起こし、私たちが大切にしてきた「自由」を徐々に蝕み、周囲に気兼ねしながら当たり障 りのないことしか表現できない社会になってしまうことをおそれるのである。

 映画館もホテルも、それぞれの私的な営業の自由があるにせよ、自らが情報流通の担い手であり、それを実現するための公共的施設であって、言論公共空間を確 保する社会的責務を負う者であるとの認識をもつことを強く求める。ましてや自治体が、反対意見のあることを理由に集会をしないのであれば、どのような集会 が認められるのか想像さえできない。

 日本ペンクラブは、このような、他人の意見に耳を傾け、多様な意見をたたかわせることで、より良き社会選択を実現するという社会の基本ルールが壊れていく 状況を、深く憂慮する。とりわけ、暴力によって強引に反対意見を封じ込めるだけでなく、反対意見の発露という形をとりつつ実質的に意見交換の機会を奪う動 きや、面倒ごとを畏れて自主的自発的に場の提供を渋る雰囲気が蔓延してきている傾向を看過できない。ここに、言論の自由や集会の自由をはじめとした、民主 主義社会を支える精神的自由の重要性と、そのための公共言論空間を社会として守る決意をここに改めて訴えるとともに、関係者の猛省をうながしたい。同時に 私たち日本ペンクラブ自身も、いっそう表現発露の場の確保に、今後とも努力していく所存である。

2008年4月3日

社団法人 日本ペンクラブ
会長 阿刀田 高

 


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