映画「靖国」への政治圧力と上映圧殺に抗議する声明

 いま、日本映画界に異常事態が起っている。4月12日公開予定の靖国神社をテーマにしたドキュメンタリー映画「靖国YASUKUNI」(李纓監督)に政治圧力がかけられ、右翼などの上映妨害によって公開の場が失われ、上映が圧殺されようとしているのである。
 映画「靖国」は、香港国際映画祭で最優秀ドキュメンタリー賞を受けた映画で、その内容は、毎年8月15日に狂態を繰り返す靖国神社の様々な姿を映し出すとともに、靖国神社のご神体である日本刀「靖国刀」(昭和8年から終戦まで、8,100 振りの刀が靖国神社境内で作られた)を打つ老刀匠の姿を淡々と描きつつ、後半でアジア諸国への侵略戦争における日本刀の意味と役割をいっさいのナレーションなしに静かに描き出した作品である。
 ことの発端は、週刊新潮が昨年12月20日号で「反日映画『靖国』は『日本の助成金』750万円で作られた」との記事を書いたことだった。この記事が出たあと、自民党・稲田朋美議員と伝統と創造の会(稲田議員が会長)・平和靖国議連などが、映画「靖国」への公的助成が適切だったかどうかを検証するための「試写会」を文化庁を通じて配給会社に「要請」した。国会議員試写会は3月12日に行われたが、与党議員らによる事前試写会の強要は、国政調査権を盾にした権力者の「検閲」の強要・公的支援への政治的介入ではなかったか。国会議員の事前試写会開催に至る文化庁の役割も問題である。
 稲田議員は試写会後、「イデオロギー的メッセージを感じた」「ある種のイデオロギーをもった映画に公的基金から助成するのは相応しくない」旨の発言をし、芸術文化振興基金からの助成取り消しを求めている。
 そして3月18日、一部映画館(新宿バルト9)が上映を取りやめたと発表された。それをきっかけに、別の上映予定館である銀座シネパトスにも右翼の街宣車が押しかけ、「『靖国』の上映を中止しろ!」と叫んで上映中止運動を展開、さらに他の上映予定館にも上映中止を求める電話攻撃が殺到し、上映を中止する映画館が相次いで3月31日、ついにすべての上映館が失われるという異常事態になった。
 これは、日本映画史上かつてなかったことであり、映画の表現の自由が侵された重大事態である。日本映画界にとって恥ずべき事態であり、日本社会の異常さを示すものである。
 また、映画が表現物として作り手のある種の主張、社会へのメッセージ、イデオロギーを持つのは当然のことであるが、それを理由に権力の中枢にいる国会議員が公的助成取り消しを求めるなどということは、絶対に許されてはならない。
 試写を見た多くの議員は、「自虐的な歴史観に観客を無理やり引っ張り込むものではなかった」「内容は意外と穏やかなもので、自民党の議員が何故、反靖国とか反日とか神経質になるのか理解出来ない」「むしろ靖国賛美6割、批判4割という印象を受けた」などと語っているが、当然の感想である。私たち日本マスコミ文化情報労組会議は、映画という表現物が政治圧力や一部勢力による上映妨害によって潰されるという事態を看過することはできない。
 日本マスコミ文化情報労組会議は、映画「靖国」への政治圧力、文化支援への政治介入、上映圧殺に憤りをもって強く抗議するとともに、すべての映画各社・映画館・映画関係者が、映画「靖国」の公開の場を失うことのない確保するよう、映画人としての勇気と気概を発揮されんことを心から訴えるものである。

以上

2008年4月1日          

日本マスコミ文化情報労組会議(MIC)
議長 嵯峨仁朗

 


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